東京地方裁判所 昭和53年(ネ)2437号 判決
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【判旨】
「次に、表見代理の主張について検討する。
<証拠>によれば、被控訴人はかつて安藤組が自動車を購入するについて、その代金債務を保証する保証契約締結の代理権を安藤実に与えた事実は認められるが、右は昭和四九年ころのことにすぎず、右代理行為は目的を達して完了しているものと認められる。したがつて、右代理権限は、本件根抵当権設定契約(以下「本件契約」という。)締結について民法一一〇条による基本代理権たりえない。しかし、仮に本件契約締結当時、被控訴人が安藤実に何らかの代理権を与えていたとしても、控訴人が安藤実に被控訴人を代理して本件契約を締結する権限ありと信じたことを正当であると認めるに足りる事情はない。すなわち、
<証拠>によれば、本件契約締結に際して、安藤実は控訴人に対し、被控訴人の記名、押印のある根抵当権設定契約書、被控訴人の印鑑証明書などを示した事実が認められる。しかし、代理人と称する者がこのような書類を所持していたとしても(なお、被控訴人の実印が控訴人に示されたと認めるに足りる証拠はない。)、目的金額が多額であり、その使途が担保提供者本人のためにするものでないような場合には、担保提供を受ける債権者としては、特段の事情のないかぎり担保提供者に直接問合わせるなどしてその意を確認する手段をとるべきが相当である。この点に関し、原審及び当審控訴人本人は、被控訴人に直接電話でその意を確認し了承を得た旨供述する。しかし、右供述は他に確たる証拠もない以上、<証拠>に照らして採用しがたい。また、<証拠>によれば、本件土地、建物についてはすでに昭和五一年三月三〇日受付をもつて権利者ミリオンリース株式会社のために所有権移転請求権仮登記、抵当権設定仮登記、停止条件付賃借権仮登記がされ、控訴人も本件契約締結に際し右事実を確認している事実が認められる。しかし、<証拠>によれば、右各登記も安藤実がその事業に充てる資金を得るために被控訴人不知の間に勝手にしたものであるうえ、控訴人が本件契約締結前に右登記がなされている事実を知つたとしても、<証拠>によれば、右登記は債務者を被控訴人とする貸金債権を担保するものでその額も三〇〇万円にすぎないのであるから、この事実をもつて被控訴人が金額もその使用目的も異なる金銭貸借についても本件土地、建物を担保として換供することを承諾していたと考えることは、担保提供を受ける者としては軽率である。また、<証拠>中には、本件契約を締結する一〇か月くらい前に控訴人は安藤組もしくは安藤実に一〇〇〇万円を貸したが、その際被控訴人よりその自宅である横浜市神奈川区大口仲町所在の土地、建物を担保として提供された旨及び安藤実は、本件土地、建物は債権者の追及を逃れるため被控訴人名義にしてあると述べた旨、被控訴人は安藤組の経理を担当していた旨の供述が見られる。しかし、右供述は、<証拠>に照らして採用しがたい。<証拠>によれば、安藤組は、被控訴人の夫安藤実が代表取締役で、母安藤しげが監査役として就任していることが認められるが、被控訴人自身は役員ではなく、控訴人の主張するように安藤組が被控訴人を含め、その一族で経営に当つていたと認めるに足りる証拠はない。その他控訴人が主張する事由は、これをもつて安藤実に被控訴人を代理する権限ありと信じたことが正当であると認めるに足りる事由たり得るものではない。
以上の次第であるから、控訴人の表見代理についての主張は理由がなく失当である。
(村岡二郎 宇野榮一郎 川上正俊)